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February 06, 2005

『ネバーランド』

J.バリの『ピーターパン』は、過去幾つもの映画や小説に引用されてきました。それらの多くが、物語が喚起するイマジネーションを信じ肯定する為に、ティンカーベルの自己犠牲とその感動的な復活を取り上げていた様に思います。

そうした"イマジネーションの生む力"を、他ならぬ『ピーターパン』誕生の瞬間に重ね合わせて、正面から描き出したのが本作『ネバーランド』です。

とかく現実世界は残酷で無味乾燥なものですが、そこに別種の視点を導入し、別の側面から光を当てる事で思いも依らぬ美や驚きを導き出す事ができます。バリがルウェイン家の子供達に教えたのは「物語の力」を以てそれを可能にする方法であり、父を失い後に母をも失う事になる彼等にとって、そして「光の当て方」を忘れかけたバリ自身にとって、最も必要とされるものでした。

しかし"別の側面から光を当てる"事は、同時に見るべき部分を影で覆い隠す事でもあります。夢想の力を以てしても進行する現実を隠しおおす事はできず、それに固執する事は幻想に"逃げ込む"ことと同義にもなり得ます。

そうした危険な側面についても、映画は正直に描き出していきます。見るべきものから目を逸らしたが故のバリ夫妻の残念な結末と、幼いピーター少年が再び対面する死という現実には、夢想の入り込む余地は微塵もありません。

それでも尚、と映画は主張します。夢想の力は悲痛な現実に我々が感じる怖れを別の何かに転嫁する事が出来る。喪失の哀しみを哀しさを超えた何物かに昇華する事が出来る。恐怖や悲哀もまた人の心が導き出すものである以上、それに互し時には凌駕するものを心の裡に作り出す事は充分に可能であり、時にはそれが現実に対峙する最良の武器ともなるのです。

映画はそうした主張を、名作誕生秘話というこの物語の一側面に忠実に、「芝居」と「観客」の図式を通して提示してみせます。イマジネーションの力は、それが成就する事を疑わない表現者の熱意と、それを受け入れる事を恐れない受け手の信頼を伴って初めて成就する事を、映画は2回に渡る『ピーターパン』上演場面で高らかに歌い上げてくれます。

芝居の冒頭に登場するのは着ぐるみの犬。読み合わせの場では馬鹿にされたと憤慨し、練習中には酸欠で昏倒してしまった犬役の役者が、初演の幕が上がる瞬間には、まるでこれからマクベスかリア王の独白でも始めるかの様な毅然とした態度で、颯爽とマスクを被りライトの中に出て行きます。その瞬間の彼の表情が実に美しい。

そして、舞台中央に進み出た彼が一声吠えた瞬間、白けきった"大人"の観客で埋まった観客席のそこここから、邪気の無い笑い声と歓声が舞台に投げ返されます。初演の場に孤児院から招待された25人の子供達、夢想と現実の間に垣根を作らない彼等の"承認"を得て、その瞬間着ぐるみの犬は本物の犬となり、安っぽい子供部屋はこれから見る筈の"ネバーランドへの入り口"へと、様相をがらりと変えてしまいます。「芝居」と「観客」の作り出す相乗効果は、残った大人の観客をも残らず巻き込んで、劇場全体を(優れた芝居が常に約束してくれる、あの幸福な)イマジネーションが実体化する空間へと作り替えてしまうのです。

それこそが、この映画でバリ自身が言う所の"ネバーランド"なのでしょう。現実世界の更に先に、けれど確かに地続きに存在するその場所は、その存在をひたむきに信じ肯定するという行為の後に初めて触れる事が出来るものであると映画は訴えかけます。

だから劇中2度目の上演場面、ルウェイン家の台所を芝居が浸食して行くクライマックスまで、舞台のクライマックスであるティンカーベルの復活は注意深く隠されています。それぞれに「死と喪失」を目前としたルウェイン一家、シルヴィアと老母と四人の子供達にとって、ティンクの死は単なる絵空事ではありません。彼等はピーターパンの呼びかけを聞く時、「死と対峙する覚悟」の有無を突きつけられているのです。

ピーターパンの呼びかけに彼等が拍手で応えた時(真っ先に手を叩くのが頑なだった母親というのが嬉しい)、初めて彼等の前に"ネバーランド"が現出します。冷めた目にはその描写は陳腐かもしれず、そこは相変わらず狭苦しい裏庭に見えたかもしれません。しかし彼等ルウェイン一家にとっては、そこは間違いなく別世界であった事でしょう。

その様にして映画は、イマジネーションのもたらす力による「ネバーランドの見つけ方 - "Finding Neverland"」を指し示してみせました。映画はその結末で再び現実に立ち返り、シルヴィアの葬儀に参列する人々の姿を映し出します。彼等は親しいものとの死別につきものの哀訴はそのままに、しかし心の裡の「"ネバーランド"に至る道」は確かに確保し続けています。残された幼い子供達にとって、それが後の現実を生き抜いて行く力となる事を願って止みません。

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