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April 04, 2006

『サウンド・オブ・サンダー』

一見しての印象は、とにかく「安い」。確かにデジタル技術の恩恵のひとつには、低予算映画でも大作に匹敵するだけのイマジネーションを駆使する余地を与えるというものがありますが、それも肝心のデジタル技術に最低限のクォリティが備わっていればこその話。ビニール製にしか見えない恐竜や、フルデジタルの描き割りの前で足踏みする役者達を前にすると、技術のみならず「技術を映像にフィットさせる手間と知恵と時間」を惜しむと何が起きるかを、今更乍らに再認識させられます。

かつては『2010年』で特撮技術の最先端を見事に物語に溶け込ませていたP.ハイアムズ監督も、ここ10年ばかりの凋落降りは著しい。知的なプロットとサスペンスを完全に払拭し、ただアクションとカタルシスのみを求めるジャンクフード映画御用達となってしまった彼の近作には、その出来の如何に関わらず接するたびに涙を禁じ得ません。それも彼が選んだ新作が、私の大好きなR.ブラッドベリの有名な短編を換骨奪胎したものと来れば尚更の事。

しかしそこは痩せてもハイアムズ監督、80年近く前の素朴な時間旅行SFからは「ごく些細な過去の出来事が未来を大きく変えてしまう」という主題だけを頂いて、その変化が「段階的に少しずつ勢いを増して襲って来る」という、クライマックスに向けてピッチを上げて行くアドヴェンチャー映画にはもってこいのプロットに作り替えます。

大規模なディザスター場面はデジタル技術に任せ(任せ過ぎてしまった失点もまた大きいですが)、実は進化の波に翻弄される登場人物達の描写に多くを割く事で、ありがちなパニック映画の騒々しさを巧妙に回避しようとする姿勢は、古くからの彼のファンには嬉しい所。

SF考証の余りの都合の良さから、本作はとても知的とは言えない映画となってしまいましたが、少なくともハイアムズ監督のアプローチは、本作を「馬鹿馬鹿しい映画」から、「馬鹿馬鹿しい事態に巻き込まれた共感できる人々の映画」というレベルにまで引き上げてくれます。これは観客にとっては大きな違いとなりました。

おかげで私達は、劇中の科学者達が陥る陥穽と苦難、後の彼等の決死の活躍と犠牲、そして最終的な大逆転までを、どこかゆったりとした気分で"鑑賞する"事が可能になります。本気で手に汗握るには余りにも良い加減で荒唐無稽なこの物語を、しかし白けた気分に陥らずに乗り切るには、たぶんそれは最適な映画との向き合い方だったのでしょう。実際、余りにもご都合主義的に全てが丸く収まってしまう結末をやり過ごした後、私は驚く程良い気分で劇場を後にする事が出来たのでした。

時間旅行社の社長ハットンは、セールストークの中で彼の顧客を過去のパイオニア達になぞらえます。字幕の都合で省略されてしまったのは残念でしたが、彼はコロンブスとアームストロング船長の次に、「火星に第一歩を記したブルベイカー船長」の名を挙げるのです。

火星と言えば思い出すのは、ハイアムズ監督の出世作『カプリコン・1』。有人火星飛行プロジェクトの欠陥を隠蔽する為に偽の火星着陸を演出し、後に同じ理由でNASAから命を狙われたミッションのチーフもまた"ブルベイカー船長"でした。どうやら、時間旅行ビジネスが完成した彼等の世界は、既に誰かによって改変された、もうひとつの歴史の先にある様です。

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Comments

杉山さん
 こんにちわ~。というかおはようございます。
ミノ@出勤前です。

私もブラッドベリが大好きなんですよ~。
なので、これの予告編見てぶっとびました。
あんな短いモノを2時間に・・と・・
これ見てないんですが、安さは何だかひしひしと伝わってきます。
いや~勉強になりました。レビュー拝読しただけで。

Posted by: ミノ | May 01, 2006 06:49 AM

ミノさん、こんにちは。杉山です。先日はお疲れ様でした。

ブラッドベリ作品は、その独特の文体と叙情性の故か、映画化の上手くいったものは少ないですね。トリュフォー監督の『華氏451度』が唯一の例外というのは寂しい限り。

とはいえブラッドベリの冠さえ外せば、本作は「昔懐かしい安手のSF冒険映画」としての楽しみがあります。いずれTV放映される機会にでもご覧になって、チープさを楽しんで頂ければ幸いです。

Posted by: olddog | May 01, 2006 07:56 PM

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