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May 05, 2006

『ウォレスとグルミット / 野菜畑で大ピンチ!』

公開に先駆ける事一ヶ月前に発売された輸入サントラ盤を、我慢できずに購入して繰り返し聴いていました。とぼけた展開と豪快なアクションシークェンスを予想させる勇壮なスコアに期待させられつつ、しかし楽曲から微妙な違和感を嗅ぎ取ったのも事実。今回ドリームワークスの元で長編として完成した『ウォレスとグルミット』新作は、その小さな違和感、旧作からのファンにははっきりと感じられる「何かが狂っている」感覚を鑑賞中も終止意識させられ続ける、どうも居心地の悪い映画になってしまいました。

もちろんN.パーク監督の過去の諸作と同様、本作も並のアニメーション映画を軽く凌駕した質の高さと面白さを提供してくれます。ウォレスの珍発明と珍商売に代表されるガジェットの魅力とそれが動き出す事によるダイナミズムの妙、どこか力の抜けた、それでいてツボを押さえたギャグとそのテンポの良さ、勿論、主役のウォレス&グルミットの二人に代表されるキャラクターの魅力と、それぞれが決して旧作にひけを取りません。

・・・・この「旧作にひけをとらない」事それ自体が、却って今回の作品の力を削ぐ結果となってしまった事に思い至るのは、意外と散漫なクライマックスを経て、ウォレス氏の自己犠牲と復活が描かれる件に至った時でした。

これまでの3作では、ウォレスとグルミットの主従と言うよりは同士的な関係は、常に仕草の端々や行動の中に"含み"として表され、劇中にあからさまに明示される事はありませんでした。観客は個々にその"含み"を発見し、物語への個人的肉付けをして行く事で、単なる人形アニメーションにある種の深みを付け加えつつ鑑賞していた、と言えると思うのです。

しかし本作『野菜畑で大ピンチ!』では、そうした"含み"は存在せず、全てが実に判り易い形で映画の表層に登場します。序盤の"Anti-Past"出動の場面もその典型。前作での同様の場面ではウォレスとグルミットそれぞれの登場の仕方を変える事で、場面自体への皮肉を込めてひとつのギャグに昇華していたものですが、今回はともかく勇壮さと見た目の面白さを追求するに止まります。

そうした「判り易さの追求」は映画全編を通して目につきました。古典的ユニヴァーサル風演出のパロディにおいては丁寧にパロディたる事を劇中で示唆し、ウォレスの正体露見のサスペンスは逐一ギャグにまぶして登場人物それぞれの位置関係を観客に確認させる。終盤の品評会会場を使った大アクションシーンに至っても、そこで使われるガジェットと伏線を事前に全て観客に提示してから始めると言う親切さ。

その結果映画は、従来の『ウォレスとグルミット』が持つイメージを増幅し、従来のファンが期待する「お馴染みの世界との再会」をたっぷりと提供してはくれますが、その先に分け入って作品そのものを楽しむには、些か物足りない作りになってしまいました。

その総仕上げが、冒頭で述べたウォレスの"身を挺してグルミットの危急を救う"という判り易い行動と、一度は死んだ彼が"チーズの匂いで復活する"という具体的かつ安直な大団円なのでした。これまでのシリーズでは単なる色づけでしかなかったウォレスのチーズへの傾倒と、行動の端々から垣間見られるグルミットへの親愛の情を、キャラクターの第一義として定義づけてしまったこの場面は、同時にウォレスという奥行きのあったキャラクター造形を、平板なものに変えてしまう効果も持ってしまったのでした。

全てがスクリーン上に開陳され映画が終了すると共に描かれるべき全てを描き切ってしまうのは、言うまでもなくアメリカのアニメーション作品に見られる共通項。例えPIXER社の作品であってもそれは例外ではありません。しかし、英国アードマンフィルムの作品である『ウォレスとグルミット』のシリーズは、そうしたセオリーを逸脱した部分にこそ持ち味があったのでしょう。ハリウッド資本を受けるにあたりアードマンは完全な自主性を確保したとの事ですが、本作を見る限り、実は物語のアウトラインを形作るごく初期の段階で、"ハリウッドの悪い癖"が紛れ込んだのではないか、とも思ってしまいます。

翻って今回の『野菜畑で大ピンチ!』を見渡してみると、ここだけは実に秀逸なタイトルシークェンスで、その全てを語り切っていた事に気付きます。実はこのシリーズに最も必要なのはアクションでも過剰なギャグでもなく、適度な皮肉と諧謔を込めた、穏やかで優しい語り口なのでしょう。長編アニメーションのフィールドでそれを実現するには、N.パーク監督とアードマンフィルム社には、もう少しの試行錯誤が必要な様です。

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